このたびは、とうらぶホラー『真夜中幻談』をお読みいただき、ありがとうございます。
本に後書きはつけていないので、こちらのページでだらだらと、今回の本について語っていきます。ネタバレ有りなのでご注意を。
<発端>
某菊の方から「主題歌がミッド〇イト〇ャッフルなホラーを読みたい」というリクエストをいただき、1話目にあたる「真夜中にて」を書いたのがきっかけ。そのお話を受けてから書き上げて公開するまでに2ヶ月近くかかっており、難産だったことが窺える。難産だった。
そしてあんまり、ミッド〇イト〇ャッフルが主題歌にはならなかった……残念……。
そういうわけで、物語の構成要素として「ホラー」「真夜中」「ちょっとかっこいい(曲のイメージ)」「主人公は何も悪くない(曲の歌詞から)」「主人公は真実を知らない(曲の歌詞から)」というのを前提に1話目を書き、『真夜中にて』として公開した。
髭切メインで進んだ『真夜中にて』=しにきれないもの、どうせなら膝丸メインで進めたものも書いた方が収まりが良いのでは、と思い、書いたのが『真夜中にて2』=しにたくないもの。その数週間後、最後に二振り揃って何か斬れば収まりがさらに良いのでは、と思い、書いたのが『真夜中にて3』=うまれなおすものとなる。
そして、1と2を書いた辺りで、無事、双騎出陣のチケット戦争に落ちたため、浮いたお金で何か本を出そうと考え、ではこの一連のホラー話を本にしようと思いつき、3話目を書き上げ、実際作った。人間の勢いとは恐ろしい。
<作品解説>
しにきれないもの
・前半部分は書き下ろし。文章を追加した影響で後半部分にも修正が加わっているので、実質8割方は書き下ろしと声を大にして訴えたい。
・「しにたくないもの」にも言えることなのだが、このホラーのバックグラウンドについては、書いている最中は一切考えていなかった。なので、すべてその場のノリ、その場のテンションで書き上げた。そして書き終わってからいろいろと辻褄合わせに奔走した。ちゃんとプロットと設定を作っておけば良かったのだが、書いた段階ではこんなことになるとはまったく考えていなかったので……。
・五虎退さん初めて書いた。
・聞こえる音が審神者、髭切、膝丸でバラバラなのは、審神者は神の声を聞く者なので、神ではないものの声は聞こえないから。髭切が聞こえていたものが実際の音声。膝丸が聞こえていたのは、なりそこないが生み出したフェイク。
・幕間がすべての答え。なりそこないは確かに首を括ったが、それは自分の意思だったのだろうか。審神者の本丸の髭切は一刀のもとに断ち切り、それを膝丸は慈悲深いと評した。彼らの目には、なりそこないの外見は、ただ首を吊った遺体のようには見えなかった。よほど恨みを買っていたのだろう。
・審神者は葬式で、友人の遺体を見ていない。翻って考えてみれば、遺体は人に見せられる状態ではなかった。友人の遺書を見ていない。残されたそれが本当に遺書であるとは限らないから。
・渡された香典返しに悪意は何もない。ただ、葬儀会場から本丸までの道を辿る術にはなった。
・審神者が五虎退の頭を撫でたのを見て、不安そうにしていたら頭を撫でれば良いのだと学んでいた。
幕間 夜明け
・長義さん初めて書いた。
・この幕間は「しにきれないもの」の答え合わせであると同時に、他の刀剣男士達が主の異常をどうとらえていたかという補足と、何故髭切が斬ることになったのかの補足。
・長義さんを出したのは完全に趣味。膝丸といい感じに組めそうだな、と思って出した。そのついでに、彼の名前のことや監査官という立場のことも絡めたいな、と思いついていろいろ書いた。なお、監査官時代のことは何も考えていない。
・ジッポライター持ってる長義さんかっこよくないですか。
・人の物を勝手に焼いてはいけません。
しにたくないもの
・いきなり九相図ネタを閃いたので書いた話。正しく死ねなかったものの末路。
・部屋の中がやたらと静かだったのは、審神者の耳には神の声以外は聞こえないから。つまり、膝丸の耳には……。
・嗅覚にまつわる表現を多くしている。1話目は音に着目したので、2話目は嗅覚に着目し、その場の異常を知る役割を果たしてもらった。
・膝丸メインで進めようと思ったのだが、結構兄者が出張っている。この本、全体的に兄者寄りなので、もう少しバランスをとりたいところだった。
・おおむね膝丸が言ったことが正解。とある審神者が死にたくないと願い邪法に手を染め、死に、本丸が異常な状態となったことで閉鎖が決まった。ただし、審神者が邪法に手を染めただけなら、こんな状態にはならなかった。次の幕間で髭切が言ったこと、考えたことこそ、こんな状態になった原因でもある。
・本文中では蛇足になりそうだと思ってあえて削ったのだが、実は、本丸の審神者と刀剣男士の関係が「しにきれないもの」との対比関係にある。「しにきれないもの」が悪い審神者とそれを恨む刀剣男士なら、こちらは良い審神者とそれを慕う刀剣男士の関係。どちらにしても、その思いの行く先が歪んでしまった結果である。
・だから、九相図の最初の臨終の場面では、死んだ人の周りに悲しむ人がいた。審神者は気付かなかったが、悲しむ人は刀剣男士の隠喩。
・なお、審神者が斬れと命じなかった、あるいは斬るものを間違えていた場合、膝丸と揃って消化され、この本丸の糧となっていた。生き餌である。
・膝丸がついてきたのは予想外だったが、内側に入れてしまった以上それだけを外に出すことはできなかった(あれな話だが、吐くものは選べないのと同じ原理)。なので、仕方なく髭切だけを外に帰した。誰にも邪魔されず、審神者と膝丸をゆっくり消化しようと空間そのものを閉じたため、外から入れなくなってしまった。それでも無理矢理開けた職員、実は優秀では?
・一番最後の会話が書きたかった。
幕間 昼下がり
・THE 難産
・鶴丸と髭切は勝手に喋ってくれるのだが、こう、核心に触れる会話をしてくれないというか、そんな有様だった。書き慣れないキャラを無理に書くものではない。でも一度でいいから鶴丸と髭切の会話が書きたかった。
・今回の原稿の中では一番最後に書かれた話。2話目の補足と言うよりは、3話目へのフラグ立てというか、そんな立ち位置。
・兄者はお茶を淹れるのがあまり得意ではないようす。といいつつ、なんでもわりと簡単にできそうな気もするのだが。
・案の定、弟は土産任務を忘れかけていた。
うまれなおすもの
・難産だった。この話を書き上げるまでは『真夜中幻談』を頒布することを正式には告知しないと勝手に決めていたので、とにかく書き上げることに集中した。のだが、結局この話を書くまでに、3つくらいネタを没にしている。つらい。
・最初、現世の祭りに審神者が勝手に呼ばれて、神の託宣をうっかり受けたせいで神が甦りお祭りが阿鼻叫喚、という流れで考えていた。ところがよくよく考えたらこれ、諸☆大二郎先生の妖怪ハンターまんまじゃないか、ということに気付き、没。それでも神を斬るというネタはなんとか活かしたかったので、こうなった。
・おもに「しにきれないもの」の伏線回収みたいな、そんな感じ。3話まとめて加筆修正しながら、2話目だけ毛色が違うということに気がついた始末。そのため、1話目の時点で既に、2振りの入室には遠慮がない描写をしている。
・膝丸が部屋の外から声をかけ、戸を開けることを求めたのは定番ネタかもしれない。
・今の時代からさらに200年も経てば、人口減少は著しいだろうし、田舎の小さな神社なんかは祀る人がいなくなって廃れていくと思う。街中にある神社も、都市開発の余波で消えているかもしれない。そういう事情で信仰を得られずただただ消えていくだけの存在が、どうにかして甦りたかった話。
・審神者がいつから目をつけられていたのかは不明。もしかすれば生まれた時からかもしれないし、実家の帰省の折かもしれない。いずれにしても、事を成せるようになった直接のきっかけは、審神者になったこと。審神者になって、本丸という現実とは違う空間に身を置いたこと。刀剣男士という存在に囲まれたが故に、人あらざるものとの物理的な距離が近付いてしまったこと。そしてそもそも、この審神者は、こういう存在に目をつけられやすい体質でもあったという裏設定。そうでもなければ、前二話のようなことは発生しなかったに違いない。
・元が人であるなら、形だけでも哀れみの言葉を与えることはできるけれど、元が神であれば哀れみの言葉など不要。二振りは唯一、この話だけで怒りを露わにしている。同じ人あらざるもの、神に近いものだからこそ怒りを抱いている。という訳で、この話では髭切も膝丸も、憐れむ発言を一切していない。
・「神託を受けよ」のシーン、最初の校正では文字組の問題で1ページまるごととはいかなくなってしまったのだが、どうしてもやりたくて、1ページまるごとにしました。満足。
・この話は補足を入れる必要がないように、最後のシーンですべての解説を入れたつもりなのだが、何か抜けているような気がしないでもない。
・ところで話のタイトルはフィーリングで決めたのだが、案外、的を射たタイトルかもしれない。参道と産道は音が同じですよね。生まれ直したのは誰だろう?
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