このたびは桑さに現パロ本『夜の魚』をお迎えいただき、ありがとうございます。
普段はSSばかり書く人間による長編(文字数的には中編なのか?)、しかも年齢制限ありという珍しい一冊です。書き終えるまでに相当の時間を要した話でもあり、思い入れもいろいろある一冊になります。
というわけで、以下、後書きと言うよりも独り言。内容のネタバレはさることながら、もしかしたら本のイメージを崩すような話題が出てくるかも知れませんのでご注意ください。
<全体的な話>
Pixivへの投稿を見て頂ければ分かるとおり、完結までに数年を要しているのだが、実際に『夜の魚』を書き始めたのは2020年8月。1話目の冒頭だけを書いて諦めていたのを、翌年、唐突に続きを書き始めて投稿し、意外と評判がよろしかったので調子に乗って2話目を書き上げ投稿、までは良かったものの、3話目は1年以上のブランクを空けてしまった。
1年以上のブランクの間には自分の体調などの事情もあったものの、一番のネックはやはり、R-18シーンと、3話目そのもののプロット。もともとそんなにR-18を書く人間ではないので、たったこれだけの話を書くにも相当の気力と体力と覚悟がいる。なにより、気分の問題が非常に大きかった。2022年は仕事でメンタルが死んでいて、そもそも何かを書くこと自体が大変だったので……。
そして、プロット。もともと3話目でおねえさんと桑名青年がちゃんと恋人になるという最終地点はあったのだが、それをどういう流れにするべきかと散々悩んだ。3話目だけで8本くらい書きかけの没案があるし、没ネタもある。たとえば、見覚えがないけど見覚えのあるスーツ姿の男の人とすれ違うとか、駅で再会する時に電車が突然運休してしまってふたりでまたホテルに行くとか、実際の3話目のように駅で桑名青年を見かけるけど、そのそばに彼と仲良く話す女の子がいておねえさんが身を引くとか、駅で出会った桑名青年がなぜかその顔が見える状態だったのでおねえさんが慌てるとか、そんな感じで。あとは、R-18シーンでスキンの残りが1枚ではなく2枚あった設定のせいで、おねえさんが第二ラウンドにもつれ込まれるとか。そんな感じで。
結果として今の内容に落ち着いた訳だが、書き上げるのに半年以上を費やすこととなった。試行錯誤の結果なんだなあ、と思って頂ければ幸い。
2020年8月の私がどうしていきなりこの話を書き出したのかは今となっては分からないが、おそらく、刀剣男士の桑名江とはいまいち結びつかないワンナイトラブ的な話をあえて書きたくなったのと、現パロだったら年下の桑名くんに「おねえさん」と呼ばせたいよなあというニッチな好みの関係だと思われる。
本にするにあたり、目次を作る必要があったので、各話に新たにタイトルをつけている。1話と2話は書いている時からぼんやり頭にあったのでわりとすんなり決まったのだが、3話目がいまいち思いつかずちょっと大変だった。結果として、「明日」というワード、夜にしか会っていないふたりが昼に会えるようになることと話の終わりが昼であることから「夜が明ける」をかけて「明ける日」となった。
なお、つけてから気付いたのだが、東京事変の「秘密」という曲に「明ける日」というフレーズがそのままある。作業用BGMとして聞いていた訳ではないし、『夜の魚』のイメージにぴったり合うという訳ではないのだが、個人的にとても好きな曲なのでここでオススメしておきます。
<1話目>
本にするにあたって、Pixiv投稿版から台詞をけっこう直した印象。地の文のノリはこれが一番気楽というか、わりと何も考えずにすらすら書けた覚えがあるので、その当時の手癖なのだと思う。
おねえさんと一緒に呑んでいた友人を加州にしようかなあ、と思っていたのだが、加州にする必要性がいまいち見当たらないし、なにより『至上ではない人生』と被るのでお蔵入りとなった。いずれにしても、おねえさんのことをちゃんと心配してくれるよき友人です。
釣った魚云々はやはりノリで書いたのだが、これが後々まで響いてくるというか、全体の方向性を決めるキーワードになった感がある。なお、3話目で水族館に行っているのは、釣った魚云々を二人がちゃんと覚えていた結果。ちょっとしたジョークというか、ここまで来たらデートの行き先はここだろうという共通認識があったとかなかったとか。
2話目で明らかになるけれど、桑名青年は別にワンナイトラブをやるような人物ではない。けれど、女の人を抱くのは決して初めてではないし手慣れているという設定。前戯がしつこいのはおねえさんが察したとおり、桑名青年の趣味と、保険。でも、多分、前戯があまりにしつこくて振られた経験、あるんじゃないだろうか……。
1話目のおねえさんはあまり自覚がないけれど、仕事が忙しいしちゃんと眠れていないしで疲れている。普段通りだったら、桑名青年の誘いに絶対乗らなかっただろうくらいには真面目なタイプ。ただ、疲れた人が醸し出す独特の雰囲気というか、色気というか、そういうものがこの時点ではわりと色濃く流れていて、隣にいた桑名青年の心の琴線に触れてしまったのかもしれない。
とはいえ、こういう話を書くにあたって、絶対に性暴力に繋がるような表現をしてはいけないし、同意のない性行為は犯罪であるという考えが元にある。なので、1話目では結構、桑名青年がおねえさんに許可を求める台詞が比較的多い。
本にした際、最後のシーンで延長戦に入るくだりの体位を少し変えている。投稿版ではおねえさんがうつ伏せにされてるのだが、桑名青年の性癖(おねえさんが気持ちよくなってるところをたくさん見たい)的にそれはしないな、と考え直して修正。おねえさんが気付いていないだけで、桑名青年は結構な頻度でおねえさんの顔を見て愉しんでいるのである。そういうところだぞ桑名青年。
ちなみに、「夜釣り」というタイトルに「Nightfishing was good」と副題をつけようかと一時考えていた。ちょっとあんまりかな……と思ってやめた。どちらにとって良い夜釣りだったのか。
<2話目>
2話目も、3話目ほどではないにしろ苦戦した。ただしこちらはプロットではなく、プレイ内容について。ホテルに行ってふたりで浴室に縺れ込む案もあったが、冗長になりそうだったので没。事後のシャワーシーンについても最初から書くのを諦めていたため、今回は浴室と縁がなかったのだろう。3話目でも省いたし。
全3話中、投稿版からの修正が一番少ないのが2話目かな? 会話は増えたが、大きな変更はないはず。ワンナイトラブがワンナイトで終わらなかった話であり、素面のふたりが出会い直した話。よくよく考えたら、このふたりが互いの素を初めて認識した話になるのか……。
素、という話をすると、先述したとおりおねえさんはわりと真面目で延々思い悩むタイプ。代わりに、一度覚悟を決めたらもう迷わない人として描写していて、3話目で頑張る辺りにそれが表れている(と思いたい)。一方桑名青年、おねえさんが年上と言うこともあって、わりと「年下の男」というイメージで描写している。加えて、好意はあまり隠さずきっちり距離を詰めてくるので、全体的に大型犬っぽい。
傘を後ろ手に隠す桑名青年がお気に入りです。この日の桑名青年はなんとなく一週間前のことを思い出して繁華街を通ったけれど、もしも今夜おねえさんと再会できなければ、すっぱり諦めようと思っていた。連絡先を聞いていなかったのは自分の単純なミスだし、酔いが覚めたおねえさんもあんな調子で、そもそも慣れないことをした結果なのだから、もう二度と会えないのなら仕方がないと、どうにか割り切るつもりだった。
つまり、桑名青年サイドとしては、再会できると思っていなかったのに再会できて、ホテルに行くことも断られず、おねえさんも今夜は酔ってないし、どうやら自分に会うつもりだったようだし、といろいろ重なって正直テンションが上がっていた。喜びの表現が過激。
「次は~」のくだり、桑名青年はちゃんと計算して言っている訳ではなく、無意識のうちに、自然に、次のことを考えて言っている。そうやって何の違和感もなく次に会う時のことを考えてしまうくらいに自分はこの人のことを手放したくないんだな、と静かに実感して、静かなままに受け入れている。なので、事後、次にこの人を抱く時にはもっと気持ちよくしよう、もっと大事にしようと、そんな風に考えながらのピロートークである。結果は3話目をご参照ください。本人がそう思っていても、相手に煽られてしまったらどうしようもないのであった。
それに関連して。『夜の魚』全体を通して、桑名青年からおねえさんへ、唇で触れる描写やキスが多い。桑名青年の癖というか、愛情表現・親愛表現というか。手で優しく触れるのは当然のことだけれど、あえて唇で肌に触れるというのは、当然のこと以上の表現、というイメージ。
そういえば、投稿版ではそのままなのだが、桑名青年がおねえさんの名前を呼んだ(と思われている)シーンがなくなっている。この時点では桑名青年はまだ「おねえさん」呼びだろうな、と思ってのこと。まあ、恋人になってもしばらくは「おねえさん」呼びだろうけれど……。
<3話目>
難産。いや本当に……。
プロットに関しては先述の通り、いくつもの没案がある。1、2話目でふたりの考えとか関係性とか、そういうのを語るシーンをほとんど抜いてしまったので、3話目ですべてをいい感じに発展させて結論づけて収める必要があった。そのため、3話目はベッドシーンに入るまでが長い。それこそ冗長になってしまったかな、と反省しているところ。
シリーズの最終話ということで、ずっと決めていたのが、1話目の「いただきます」の対比として、「ごちそうさま」という台詞をどこかで使うということ。無事使えました。あと、ちょっとしつこすぎるかなあと思いつつ、わりと1話目の台詞や言い回しを再登場させている。1、2話目とは明確に違う関係性でのベッドシーンというのが念頭にあったので、できるだけふたりをいちゃいちゃさせつつ、1話目と同じ会話や表現でありながらあの時とは何かが違う、という感じにしたかった。
ちなみに、3話目ではこのふたりが互いに痕を残す表現があるけれど、これは恋人になったからこそ出来たことで、そういう関係性でない時は絶対に残さないだろうな、と考え、3話目投稿前後に投稿版の1話目を修正した経緯がある(投稿版では当初、桑名青年がおねえさんの肩先を噛むシーンがあった)。
ベッドシーン、当初はおねえさんを頑張らせるつもりはなくて、2話目で桑名青年が言っていた「また今度」を実践させたいと考えていた。が、話の流れ的にそれはちょっと情緒がないなあと考え直したのと、気付いたらおねえさんが頑張っていたので、結局実践されないまま終わってしまった。でも桑名青年は有言実行の男なので、いずれやらかすと思う。
最後の水族館について。実は1話目を書いた時点で、なんとなく、「このふたりの初デート先は水族館だろうなあ」とぼんやり思っていた。加えて、3話目に着手した頃に縁あって自分も水族館に行くことがあって解像度が上がったので、オチとしてこのシーンを書くことはほぼ確定していた。そこに辿り着くまでが大変だった……。
とはいえ、いずれきっちり完結させたいと思っていたシリーズを無事書き終え、なおかつ本にもできたので、今となってはいい思い出である。おねえさんと桑名青年のその後の小ネタはいろいろ考えているので、いずれSSとして書いていけたらいいな、と思っている。
0コメント