このたびは「GhostNote」をお迎えいただき、まことにありがとうございます。たびたび書いている膝さにホラー系短編で、とうとう一冊出来上がりました。びっくり。ここまでのページ数になる予定じゃなかったのに……。
この「GhostNote」、ツイッターをずっと見てくださっている方はもしかしたらご存じかもしれないが、元は七月くらいにツイートしていたネタである。ツイートし始めた時はまったく展開を考えておらず(夏の海に合宿に行くという舞台設定しか考えていなかった)、その場その場で設定を作りながらツリーにしていった結果、完結までに半日近くかかった上、「夏の海でグロ系ホラー~刀さにを添えて~」という誰得ツリーが出来上がった。今回の話は、そのツリーの内容を元に短編に仕上げている。
ツイートした時点ではお相手の刀剣男士の名前は一切入れていなかったのだが、わたしが書くのでまあ相手は膝丸になる。一方、この一連のツイートを終えた後に設置したマシュマロで、誰をイメージしながらツリーを読んだか尋ねたところ、兄者、膝丸、山姥切国広、豊前江、桑名江、源清麿の名前が挙がった。答えてくださった皆様、ありがとうございました。と言う訳で、今回の極秘任務にあたった一部隊の面子は彼らという裏設定がある。
ちなみに、これを書き始めたのは10月。前々から「薄い本を複数作ってひとり同人誌即売会やりたい」と思っていて、それを実行しようと9月くらいから『奇談収集録』と『詠歌』の準備を始めていた。ただ、その時点では、この話はあまり書く気がなかった。なにせ、夏の話なので、冬の通販には合わないだろうな、と。
だというのに、10月くらいに「よし書くか!!!!」といきなり思い立ち、書き始めてしまった。書き始めたはいいものの、11月に真・女神転生5が手元に届いてしまい、1か月ほどダアトを走り回ることに。結果として、1か月のブランクを挟んで、1月中旬にようやく書き終えた始末である。いやほんと、今回は自分で決めた締め切りながら、大変ヤバかった……。
と言う訳で、以下、解説という名の独り言。相変わらずのネタバレと情緒のなさをどうぞ。
・GhostNoteもといゴーストノートとは音楽用語で、聞こえないくらい小さな音、音程にはならない音のことを指す。存在しているような存在していないような微妙な音だけれど、これがあることで演奏がリズミカルになり、ノリが良くなるそう。今回はそういう、「存在しているのかどうか分かりづらいけど確かに存在している」という定義と、「幽霊の音(符)」という直訳を掛けている。正確には「ghostnotes」なのだろうが、これ単話という意味合いも込めて、複数形のSはつけていない。
・後輩のふりが下手くそ選手権堂々一位の源膝丸さんです。どう足掻いても素が出る。それでも頑張って敬語使ったし、頑張って普通の人のように振る舞おうとしたけれど、序盤も序盤で本音を出してしまった。ドンマイ。
・なおこれ、膝丸の立場にいるのが髭切だった場合、最初からタメ口だった。後輩のふりが下手くそ云々ではなく、そもそも後輩のふりをする気がないから、選手権出場資格がない兄者。主と呼べないから先輩と呼んでるだけ。
・ところで、ゼミ合宿って他の大学にはあるのだろうか。私の母校ではそこそこメジャーな文化だったのだが。
・夏の海でゼミ合宿というのは、一連のツイートをした日の昼になんとなく海に行ったので、そこから思いついたのだった。夏の海、好きです。私が。それだけです。
・ツイートとちょっと違うのが、後輩の描写。顔が分からないという設定は、この短編で追加された。自分でもなんでこの設定を追加したのかいまいち分からないし、おかげで文字数が一万字くらい増えている。
・強いて言うのなら、「刀剣男士が任務先の時代で活動するとしたら、あの外見をどうにかする手段を揃えているのではないか」「審神者と刀剣男士ではない、普通の人間同士(と主人公は思っている)がホラーに巻き込まれる展開だし、何かひとつアクセントがほしい」「一緒に巻き込まれた人間が実はホラー側だったらどうしよう」という発想があったはず。そういう訳で、今回の膝丸さんには「顔が見えない」という怪しさポイントを抱えて頂きました。
・そして、今回のホラーは三本仕立て。後ろをついてくる正体不明の何か、百物語、人の足を掴むもの。どれもホラーとしては一般的なネタというか、定番ネタな気がする。
・後ろをついてくる正体不明の何かは、膝丸が言っていたとおり、死体。より詳しく表現するなら、水死体。審神者が後輩の方を振り向いていたら、SAN値がガッツリ減らされていた可能性がある。といっても、振り向く素振りを見せた瞬間、膝丸に止められていただろうが。
・そして、わりと早々に正体がばれる膝丸。後半で本人が解説しているが、疑いを持つことで暗示が解けるので、帰り道のやりとりで審神者の暗示は完全に解けている。とはいえ、解けるのは時間の問題ではあった(同期と違い、膝丸と離れてしばらく経っても覚えているので)。
・百物語は、百話語ると本物の物の怪が現れる。それをある種の儀式とするならば、今回はまさしくそれだった。膝丸はあえて言わなかったが、百物語が終わった後に何か手を打つべきなのでは、と考えたのは、百物語が一巡して全員意識を失った→儀式が成功して全員の気力やら何やらが奪われたと仮定すれば→奪われたものを元手に物の怪が出現するのでは、という思考の流れがあったから。つまり、「人の二本足を掴むもの」の本当の登場は、この百物語の成功によってなされるのではないかと気付いた。
・実際に百話は語っていないが、同じ話を延々と繰り返したことで、物の怪の出現が加速されたイメージ。この百物語、主人公が失敗するか逃げ出すかすればルールを破ったものとして公然と捕まえられるし、語ったら語ったでその次の本命の呼び出しが成功するしで、明らかに向こう側に有利な場だった。そもそも立地からして膝丸にはかなり不利だった(海から来るものたちにとっては本拠地、膝丸にとってはまったく知らない出先の土地かつ金属的に海は苦手)。お疲れ様です。
・こんなことならコテージに戻らなければ良かったのでは?とも思うが、コテージに帰る道から外れたら最後、後ろどころか海やその辺りから諸々が這い出て追いかけてきていたし、審神者を抱えて逃げるには土地勘がなく、かつ、太刀が苦手な夜。「審神者を守ること」を大前提に置いて行動するとなると、この時点ではコテージに戻るしか方法がなかったし、コテージのメンツが取り憑かれていたのは想定外。それでも、万が一にも何かあったら、という発想があったため、「コテージでも俺から離れるな」という発言に繋がっている。
・平然と語っているがこの男、実は結構綱渡りをしていたし、その自覚がある。(未来の)主の手前、あまり不安になりそうなことは言わないようにしているだけで、多分、かなり胃が痛かったし焦っていた。実際、ひとつミスを犯している。
・一階のリビングの窓の鍵を閉め忘れたのである。
・まあでも鍵がかかっていたら無理矢理割って入ってきていたので、後片付けや参加者への説明のことを考えると、これはこれで結果オーライだったのかもしれない。
・これも膝丸本人は語っていないが、いざとなったら自分の片足を落として三本足にしようかとも考えていた。わりと本気だった。
・この本気を止めたのが、未来の主の態度。未来の主は普通に生きていて、膝丸にも普通に接していて、警告はあくまで海、足には少しも触れなかったことを考えると、あまり奇をてらったことはしなかったのではないか、と気付いた。後は、正直、この三本足作戦が失敗するかどうかは自分達より前のベッドの様子で分かるので、それ次第でどうにかできるのではないかとも考え直した。
・つまるところ、膝丸は主以外の参加者を見捨てる覚悟を決めていた。その上で打つのを躊躇った一手というのが、「海から来た何かを斬り捨てること」。膝丸としてはかなり斬ってしまいたかったが、なんで太刀を持っているのか、なんで斬ることができるのか、などの疑問を持たれてしまったら言い逃れが難しくなる。と言う訳で、その後のことを考えて太刀を使うのを躊躇った(実は審神者には見えていないだけで、本体がすぐそばにあった)。
・自分が「刀剣男士の膝丸」であることは、絶対に語ってはいけないし悟られてもいけない。本来は、外見がばれることもあってはいけない。それが、未来の己の主であるなら尚更。これは時の政府からの厳命でもあった。そのせいで、一番有効である「斬る」という手段がとれない妖斬りの太刀。
・台詞ではあえて「……」で済ませたが、この審神者は幼い時に海で溺れた経験があるという設定。幼い時のことなのであまり覚えていないが、以降、親は絶対に海に連れて行ってくれなかったし、水辺に近寄ることも許してくれなかった。結果として水に親しむことはなく、むしろ溺れた経験から本能的に水を忌避するようになり泳げなくなったので、カナヅチであることは事実。海で溺れた娘の足首を見た親のことを思えば、水辺に近寄らせてくれないのも仕方ないと言えば仕方ない。
・審神者が気を失った時点で足首を掴むものは諦めて出て行ったが、その後の片付けが大変だったとは本丸に帰ってきた膝丸談。足首をあんなに強く掴まれたのは、審神者と膝丸だけ。あと、膝丸は審神者よりも更に強く掴まれていた。折れるかと思った(骨が)。
Q.なんでそんなに強く掴んだの?
A.「お前が起きていることは知っている」
あと、膝丸には単純に嫌がらせ。「おまえがいなければ引きずり込めたのに」
・膝丸が別学科のゼミにいた理由は、この話の前提が膝さにということで、お察しください。「膝丸」じゃなくて「源さん」と呼ばれるのは新鮮だったけど、ちょっとだけ寂しかったそうです。
・カバー裏のQRコードにちょこっと書いたが、膝丸達の部隊が審神者の学生時代にいたのは、審神者が通う大学の図書館に所蔵されている資料を守るのが今回の任務だったため。この資料というのが、歴史修正関連というよりも、刀剣男士の顕現や定義に関わる貴重な資料であり、時間遡行軍に手を出されたら刀剣男士そのものが消えるかどうかしてしまうレベルのもの。だから、極秘任務という扱いで、大学に縁がある審神者と、その本丸が選ばれた、という裏事情があった。
・この資料は、審神者が四年生の間に大学図書館から他の場所に移送されたので、刀剣男士達がいたのは一年のみ。かつ、歴史修正主義者が資料の重要性に気付いていなければ襲われることもないので、刀剣男士はできるだけ目立たない状態で大学に属し、遡行軍が来るかどうか、日々警戒する必要があった。
・という捏造任務です。
・部隊の構成は先述の通り、マシュマロをくださった方々から挙げられた面子だが、こうして並べてみると意外とバランスは良さそう、かな? あんまり喧嘩とかもしなさそうだし、一年間、案外仲良く生活出来ていたのではないだろうか。多分、大学近くでシェアハウスをしていたと思う。
・ちなみに、名刺についているSSは(それ単体でも読めるようにしたが)設定的にはこの本の膝丸と審神者。時間軸は、膝丸がこの任務に赴く前。審神者は包帯を巻かれた時のことを脳裏に思い描きながら、世話焼きだね、と言っている。膝丸がその意味に気付くまで、もう少し。
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