このたびは『奇談収集録』をお求めいただき、誠にありがとうございます。
今回のとうらぶホラー『奇談収集録』は、『一頁奇談』がどの話も1ページで終わるので、じゃあ次はどの話も2ページで終わる本だな、という発想があったとかなかったとか。
ともかく、オールキャラとうらぶホラー本2冊目です。『奇談』を『収集』した『記録』。メタ的には、フリートに掲載していた1ページ完結ホラーを中心に収録している。本的には、ひとりの審神者/政府職員が、聞いた話を【凡例】の通りに編集して記録したもの、という設定。なので、1話ごとに違う本丸。なお、【凡例】を前提にして読むと、1話だけ語り方がおかしい話が……?
ちなみに、フリートに1ページで終わるホラーSSを載せていたのは、フリートの「24時間で消える」という仕組みが面白いと思ったから。24時間で消えるということは、見た人の記憶頼りになる。そこに何の説明もなくホラー系SSを投げ込んだら、「昨日見たはずなのに今日は見ていない」「確かに存在したはずなのにもうどこにもない」「だがとにかく何かがおかしい話だった」という奇妙な感覚、心細さ、己の記憶への疑念に繋がり、ホラーとしての奥行きが増すのでは、と思ったため。
以下、各話の解説だったり設定だったり。基本的にネタバレな上に情緒がないので、ご注意ください。
・名無し
一番最後に書いた話。この本の一番最後に「名無し」という話を収録すると決めていたので、じゃあ、それに対応する話を書こうと思って。
正体はご覧の通り。常に第一部隊に入るということは、前線で活躍していて、かつ短い箸を使っていた、そういう誰か。
・手招き
フリートの1ページ完結ホラーの始まりがこの話。もともと1ページ完結ホラーそのものが、「普段書かない刀剣男士を書いてみよう」というテーマに基づくものだった。という訳で、初書きのねねさん。
地面から生えている花がなんとなく手に見えたことから出来上がった話。だが、その花が何だったかは覚えていない。
・薙ぐ
書き下ろし。この本全体に言えることだが、タイトルがネタバレ。『薙ぐ』のは誰だ?
植えられている花はすべてゲーム内景趣。冬にとどまれば花は落とされないだろうという力技解決だが、落とすものがなくなったら、次は何が狙われるのだろう。
・失った記憶
口調の違いがポイント。挙げられた名前がアクセント。怪しさ満点の万屋福引き。「誰が」失った記憶なのか。
・後ろ髪を引く
物理的に後ろ髪を引かれる話。普通の怪談を目指して書いてみた。現世に戻った本人は幸せなのかもしれないが、その足元にはたくさんの骸が横たわっているのかもしれない。
・死期
書き下ろし。やっぱり源氏兄弟はちゃんと名前を出したいなあと思って書いた。
見えているものが髭切と膝丸で違う。その上で、半年前、とは。
・君の足音が聞こえないので
青江単騎以降、青江が書きたい熱があり、思わず書いたもの。普通に読むと幽霊さんがお茶目だなあという感じなのだが、明かりが反応する対象をよくよく考えると、あれ? となるかもしれない。
・人質
書き下ろし。にゃーさんを書いたことがなかったので。なんとなく、にゃーさんならこういう感じでさらっと助けてくれそうだなあという解釈に基づく。人質というか、物質。
それにしても、これだけで短編一本書けるんじゃなかろうか。
・紅一点
紫の木は実際、藤が杉の木なんかに絡まってると遠目にそう見える。ふと眺めた山にそういう木があったので思いついた。
この審神者は男性。それなりに良いお歳。無事、どうにか生き残っている。
・何もいない
書き下ろし。南泉といえば猫。猫といえばフェレンゲルシュターデン現象。あるんじゃなくて、いる。何もいない、にゃ。
・メメント・モリ
最初は地蔵の話だけに地蔵行平にしようかと思っていたのだが、首が落ちているということで長曽祢さんになった。刀ミュ天狼傳再演を見た時の印象が強かった。本当にごめん。
なお、首の落ちた地蔵は実在する。斬首された一族を葬ったところにある地蔵がそうだったように思う。遥か遠い記憶で曖昧だが。
・焼け跡
焼けたことのある刀剣は多いなあという発想から。もしかしたら、数ある同田貫の中の一振りも、いつかは焼けたことがあるかもしれないし、ないかもしれない。
眠りは死に似ているという。その眠り、本当にただの睡眠ですか?
・蜃気楼
ホラーというより不思議系。夏の連隊戦の時に思いついた話。あれだけ貝があれば庭なんてあっという間に埋め尽くされそう。
ちなみに、蜃気楼の蜃は大ハマグリなので、厳密には夜光貝は関係ない。雰囲気ということで、ひとつ。
・危機一髪
この本丸の鶴丸国永はそもそも落とし穴を掘らない。遠征から帰ってきた彼は一言「冤罪だ!」と叫んだという。
・訪問販売
書き下ろし。うちの職場にヤ◯ルトさんが来るのだが、そこから着想を得てしまった。
図録で解説されていた日向くんの目がとても綺麗だったので、頑張ってもらった。次はもっとうまくやるよ、とは本人の言。
・青天の霹靂
桑名江が畑でラジオ聴いてたら似合いそう+桑名江の首元のチャームが雷っぽい=青天の霹靂にしよう、という発想(自分でも訳が分からない)。彼にとっての青天の霹靂は翌日。畑に刺さる槍を見て思わず悲鳴を上げた。
ラジオの正体は不明だが、今のところ的中率100%。
・おてだま
書いた時の意図と、書き終わって読んだ時の印象が全然違ってしまい、書いた本人がめちゃくちゃに焦った話。
書いた自分としては特に何の含みもなく、小豆長光が危ないものを見つけて善意で回収していった話として考えたのだが、読み方によっては、そもそもそのお手玉を作った刀剣男士は何を材料に作ったのか、小豆は何故回収していったのか、回収してどうしようというのか、深読みしようとすればどこまでも深読みできる話に仕上がってしまった。刀剣男士がホラー。
ちなみに小豆長光にしたのは、お手玉の中身に小豆を入れることが多いから。単純。
・肉体
書き下ろし。にく(のからだ)がほしいです。
水心子はいつも頑張っている主に感謝と労いの手紙を書いて入れてくれたそうです。審神者は泣いた。
・人魚の肉
これだけ、刀剣男士の名前が書かれていない(「名無し」を除く)。一部隊揃って見つけてきたもの(という設定)なのであえて書かなかった。
人魚の肉と偽られた何かを素直に持ってきたのか、人魚の上半身を持ってきたのか、今となっては定かではない。
・善意で舗装されているもの
書き下ろし。どこかの国のことわざだったか慣用句だったか。わざわざ行き先までの道標をつけてくれているという意味で、善意。行き先はともかく。
行き先を考えて、平野か長谷部で迷った結果の長谷部。長谷部としては、主がそこに行くことは確定しているらしい。
・名無し
台詞を何度も何度も書き直したのだが、イマイチ意図が伝わりにくい話になってしまった。無念。
ようするに、○○を斬ったことで「○○切」という名前を得るはずが、その○○そのものが「呼んではいけない/口にしてはいけない/斬ってはいけない」ものだったがために、「○○切」という名を得られず、かといって以前まで名乗っていた名に戻れるはずもなく、結果として無名になってしまった。名もなきものは存在しないも同然だから、誰の記憶にも残らない、という話。
少しずれるけれど、たとえば、膝丸が鬼を斬ったら、髭切が土蜘蛛を斬ったら、刀剣男士が時間遡行軍ではなく、他の何かを斬ったら、彼らは彼らでいられるのだろうか。そういう発想が元。
自分でいたかったのに、そうではいられなかった誰か/何かの話。名を失ってしまったけれど、確かにそこに存在するはずの物の話。忘れられる無名の存在の話。それでも確かにそこに存在する。目に見えないけれど、そこにいる。忘れないでください。
この話を念頭に置いて、一番最初の「名無し」や栞の話を読んでもらえると、彼らのバックグラウンドが窺えるかもしれない。
・折本『本丸架空生物覚書』について
この本を購入のうえBOOSTしてくださった方に、お礼として同封した折本。本丸内に、生物図鑑に載っていないような、架空の生物がいる設定で書いた覚え書き。これは、「本丸架空生物」というテーマで2019年に2、3本のごくごく短いSSを書いたことがあり、それが元ネタ。春呼鳥と文字喰魚はこのSSを元に書き直している。
危険度Eはこれといった害がないもの、Dは多少あるもの、Cはなんらかの対処を必要とするが今のところ大きな害はないもの、Bは過去に害があったが現在は正しい対処が分かっているもの、Aは過去に害があり、現在は対処できているが、それが本当に正しい対処なのかが不明で予断を許さないもの。Sは手の打ちようがないもの。?は危険度の判断に悩んでいるもの。
なんだかんだ書くのが楽しかったので、いつか本にしてみたい。でも本にするなら挿絵欲しいよなあ……と思いつつ、こんなニッチな絵を一体誰が描くというのか。
『奇談収集録』に出てきたあれそれがちょっとだけ関わっている、かもしれない。あなたの本丸にも、架空生物、いませんか?
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